印象派絵画から見るコーチングの知の枠組み

日本ではモネ、ルノアール、セザンヌなどの印象派の展覧会が開催されます。印象派の絵が好きな人は非常に多いです。

しかし、実は「印象派」という言葉は最初は「けなす言葉」でした。

印象派とは揶揄した言葉だった

今とは比べ物にならないほど西洋の美術界は保守的で、その基準を満たさないと、美術作品として認められませんでした。

それに反発して新しい絵画を目指した人たちの一派を私たちは印象派と言っています。

この印象という言葉はクロード・モネが描いた『印象・日の出』という作品について批評家ルイ・ルロワが書いた批評からきています。

このモネの作品の題名が『印象・日の出』だと知ったルノワが批評紙「シャリヴァリ」に

「印象、そうだと思ったよ!…(中略)…描きかけの壁紙でさえ、この海景画と比べたら仕上がりすぎだといいたいね」

  引用:「モネ展「印象、日の出」から「睡蓮」まで」のカタログから引用

と回りくどい皮肉を書いているのです。そして、モネの作品のタイトルをもじって、彼らの展覧会を「印象派の展覧会」と揶揄しました。

つまり、「つまらない、表面的な深い意味も技術もない”印象”という物しか描けない人たちの展覧会」という意味でつけているのです。

その物の価値は普遍ではない

私たちは印象派が美術界や世間で認められてからのことしか知らないので、「印象派は
素晴しい芸術!」と無邪気に思っていますが、本来の意味合いは、それほど良い意味で使われていたわけではありません。

現代の私たちと19世紀後半の人達とでは、その作品に感じる価値は違うのです。

私は哲学者のフーコーの「エピステーメー(知の枠組み)」をここに見ます。

エピステーメー(知の枠組み)とは

人の見方、物の価値は普遍的ではない、時代によって変わるものだ。

その時代の「知の枠組み」によってその認識は変わる、という考え方です。

創造は今ある価値の外からやってくる

では、どうして「印象派」を定義していたその時代の「知の枠ぐみ」は変わってしまったのでしょう?

一つの大きな要因は、印象派の絵画がアメリカの富裕層に受け入れられたからです。

アメリカにはヨーロッパのような古くから受け継がれる伝統は有りません。ですから、ヨーロッパの伝統がもつ「知の枠組み」から縛られない価値観が生まれる余地がありました。

アメリカの富裕層は、ヨーロッパにある価値観をよく知らないわけで、自分の価値観で「いいな!」と思った最新の絵画を買い求めます。

それに、アメリカは文化に飢えてましたが、自分たちのアメリカの国の文化を作るときにはヨーロッパの価値観がぴったりと張り付いた絵画では面白くなかったのではないかと思います。

第一次世界大戦で疲弊していたヨーロッパとは違い、アメリカは無傷で、逆に戦争で稼いでいました。その経済力がヨーロッパのアート業界にも影響を与えはじめるきっかけとなってきます。

そのアメリカでの評判がヨーロッパ美術界に逆に影響を与え、ヨーロッパでも美術界での一ジャンルを確立することになったのです。

よくあることですが、革新的な創造は古い固定概念で固まったところでは育たないということです。

革新的な創造はいつもその価値観の外からやってくるのです。そして、それが経済力=力の関係性の変化から起こることがよくあります。

現代の「知の枠組み」とズレたコーチングやカウンセリング

コーチングやカウンセリングの在り方もそうです。

古い心理学や認知科学をその理論のベースにしたさまざまな手法のコーチングやカウンセリングが作られています。

今日ではそれらはいかにも、定番の確立された考え方であるかのように存在していますが、本当にそれは正しいのでしょうか?

特にフロイト、ユング、アドラーの理論をもとにしているコーチングやカウンセリングはもう今の時代では価値は低いです。

それらの心理学者の時代の「知の枠ぐみ」と現代の「知の枠組み」は違うからです。

フロイトやユングはアートの印象派の時代よりも少し古い時代の人達です。

その時代からあらゆる理論が発展してきました。それに伴い、人間の「知の枠組み」も大きく変わりました。

それなのに、昔の「知の枠組み」の言葉の意味をそのまま使って、現代を生きる人たちをアドバイスしても、見当違いになります。
その時代とは社会も価値観も世界観もすべて変わってきているのですから。

「印象派」の言葉の意味合いが変わったように、
「人間」という言葉の意味も
「真理」という言葉の意味も
変わったのです。

しかし、そのことを多くの現代人は気づいていません。
「印象派」が昔は揶揄した、よくない意味合いだったことを知らないように。

無邪気にコーチング協会やカウンセリング協会が教えてくれるその言葉を使っているだけです。

もっと、自分の業界の中だけで考える視点ではなく、もっと大きな枠組みで自分の仕事をとらえなければ、いつのまにか時代遅れになるのは当然です。

昔の「知の枠組み」から抜け出て、現代の「知の枠組」に合うコーチングやカウンセリングが本当は必要なのです。